日本語に数多く浸透している英米借用語彙の中には、ときに、原義との間で大幅に、もしくは、微妙に指示範囲・意味範囲・概念の上で「ずれ」を生じながら独自に発展普及しているものが少なくない。そして、この「ずれ」は、借用語彙の社会的浸透時期とも絡んで、世代間によっては、受容の仕方にも自ずと微妙な差異が生じているものと推察される。本研究発表は、その差異によって引き起こされるコミュニケーション・ギャップおよびコミュニケーション・ブレークダウンの実際が如何なるものであるかを、「親子(保護者/学生)間での借用語の相互受容」という限定的な調査結果を手がかりに探ろうとするものである。本研究発表は中間発表ではあるが、最終的には、マスコミなどで無秩序に使用されている借用語使用に対してのガイドライン作成をも念頭に置こうとするものである。
2.シェイクスピア・レシピ
発表者 越智 敏之(千葉工業大学)
司 会 山根 正弘(創価大学)
ヨーロッパでは印刷業が成立してから間も無い15世紀の終わりに、レシピ本が出版されている。つまりレシピ本は聖書に次いで出版された書籍の一つなのである。当時レシピ本には現代人には理解しにくいなんらかの重要性があった。一つには当時の社会が徹底したコネ社会であった事があげられる。コネ社会では「同じ釜の飯を食う」ことがことのほか重視された事は説明するまでも無い。だが文学研究の観点から、より重要な理由は、当時食べ物が、体液理論を背景に、人間というミクロコスモスをその外側にあるマクロコスモスと結び付ける、いわばへその緒のような役割をはたしていたことだ。そしてマクロコスモスが植民活動によりさらに外へ外へと拡大していた時代に、レシピ本の出版件数も増大していく。今回の発表ではレシピ本にまつわるこうした時代背景と、シェイクスピアの作品に出てくる料理のレシピを紹介したい。
14:00-14:40
3.「社会言語学的能力」の観点から見た「オーラルB」インプットの考察
発表者 藤田 牧子(神奈川県立衛生短期大学付属二俣川高校)
司 会 大野 直美(東洋大学大学院)
昨年度の第四分科会の共同研究である『「オーラル・コミュニケーションB」検定教科書のタスク分析研究』に続く、リスニング・インプット研究の一部である。現在の英語教育理論の主流となっているCommunicative Approachは、Hymesのcommunicative competenceの概念が基礎になっている。Hymesの概念の特徴は、言語伝達能力の中に、従来の言語的知識だけでなく、それを実際のコミュニケーションの場面で適切に使える、という社会言語学的能力をも含めていることにある。本発表では、広範囲にわたる社会言語学の研究分野の中から、言葉遣いの変化を引き起こす要因と、文化の違いによって言語行動の慣習が異なるために誤解を招きやすく、社会言語学の文献でよく研究テーマにされる発話行為、の二つの焦点に絞って「オーラルB」インプットの考察を行いたい。
14:50-15:30
4.超絶と実存−その交点を求めて
発表者 長坂 昇(昭和女子大学短期大学部)
司 会 鈴木 哲也(明治大学)
エマソンが唱える超絶主義と近代ヨーロッパ哲学が生んだ実存主義とはいくつかの点で共通点が見られる。まず両者はロゴスというよりもパトスである。エマソンはデカルトの合理主義よりもキェルケゴールの個の生命に向かう。次にLeben<生>を追求して止まない。Addressの中でlifelessな説教を批判して吹雪の躍動に真理を認める所とニーチェの「生の歓喜、恍惚」の世界とかハイデガーの「存在とは時間である、従って生成こそ存在である」と主張する点とはまさに同一思想であるといえる。更に両者は既成の価値観を根底から覆そうとする意気込みがある。エマソンが史的キリスト教の奇蹟をMonsterと論破する根拠はニーチェが「神が死んだ」と叫びルサンチマン理論に基づく伝統的なキリスト教思想を根本から否定して、ディオニソス思想を打ち立て生命の宗教とも言える哲学思想を大成した点と大変よく類似するのである。
5.高等学校リスニング教科書の言語機能分析
発表者 平川 敦子(城西大学)
司 会 岡崎 真美(大宮赤十字看護専門学校)
英語力を考えるとき、従来重点をおかれていた文法力だけではなく、人とのコミュニケーションを構築する力が近年非常に重要視されている。この文・文法を超えたコミュニケーション構築力は、1970年代に提唱された"communicative competence"の概念と呼応し、現在の英語教育の重要な研究テーマのひとつとなっている。本研究では高等学校オーラル・コミュニケーションB検定教科書12冊を取り上げ、音声テープに収録のインプットについて、どのような言語機能を教授しようとしているのかを分析した。これらの言語機能は、単なる事実・情報の伝達か、自分の意見・感情の表明か、人への働きかけか、社交的な言葉か等に分類される。またコミュニケーションをうまく行えなかった時の立て直しの方略がどの程度教えられているかについても分析を行った。この分析結果に基づいて、コミュニケーション重視のリスニング教材の望ましい在り方に関しても論じてみたい。
8月29日
受付開始 10:00
研究発表
10:30―12:00(2教室使用)
10:30-11:10
1.Speaking taskにおけるLearning Strategies
発表者 木村みどり(城西大学)
司 会 宮本 和恵(東京国際大学)
近年、Communication Strategiesの研究が盛んに行われている。しかし、Tarone(1978)が指摘しているように、頻繁に、また代償的にこのストラテジーに頼りすぎてしまうと、言語能力不足を技術的に埋め合わせ、第2言語学習を回避するという危険性(水野、1995)がある。英語を外国語として学ぶ日本人の学生の能力を伸ばす上で大事なのは、むしろ、Learning Strategies、つまり、英語を習得するために、学習者がどのような勉強方法をとっているか、どのような工夫や努力をおこなっているか、を調査し、これからの効果的な英語指導方法を探ることではなかろうか。本研究では、100名の被験者に2種類のSpeaking taskを与え、Crookes(1989)、Cohen and Olshtain(1993)、Foster and Skehan(1996)が主張するPlanningの段階に特に焦点を当て、学習者がどのようなストラテジーを用い、またそれが、実際のパフォーマンスの中でどのように生かされているかを調査する。
2.ラフカディオ・ハーンの仏教観
発表者 大東 俊一(法政大学)
司 会 先川 暢郎(拓殖短期大学)
ラフカディオ・ハーンは欧米の読者に日本を紹介する作品を多数書いている。その中には仏教をテーマとした作品も数篇ある。今日、日本の読者がそれらを翻訳で読む場合、訳者によって用いられた仏教用語の豊富さや、その使用の適切さゆえに、ハーンの仏教理解が相当なものであるとの印象を受けるのが通例である。
しかし、仔細に検討してみると、ハーンの仏教理解には大きな偏りが見られる。ハーンは「涅槃」を仏教の主要な教義と見なしているが、それ自体は正しいとしても、そのような理解を『日本−一つの試論』などの日本研究の一環として表明するのは妥当性を欠くように思われる。インドや中国の仏教とはかなり趣を異にする日本的な仏教を築き上げてきた人々のことをハーンは扱っていないからである。本発表ではハーンの日本研究における仏教理解に焦点をしぼり、その偏向の様子と原因を検討する。
11:20-12:00
3.コンピュータはESP教材作成にどのような貢献ができうるのか
発表者 鳥飼慎一郎(立教大学)
司 会 小林 弘(東京理科大学)
発表者は、1997年度から3年間にわたり科学研究費補助金を受け、「コンピュータ分析によるESP教材、教授法の開発」という研究課題で研究を行っている。現在までに、アメリカの代表的な185の憲法判例、68万語余りをコンピュータに入力し、ESP教材作成のための基礎分析を完了している。
1) このようなコンピュータを使った言語分析の基礎理論であるコーパス言語学の紹介。
2) コンピュータへのデータ入力方法、入力データの分析ソフト、コンコーダンスの作成方法等についての紹介。
3) インデックス、コンコーダンスの活用方法等に関する紹介。
その上で、コンピュータによる分析結果は、英語教育、とりわけ教材作成あるいは教授法開発にどのような貢献が可能なのか論じてゆきたい。
4.マーガレット・フラー:もう一つのペルソナ
---イタリア・リソルジメントへの軌跡−
発表者 上野 和子(昭和女子大学)
司 会 吉原 令子(昭和女子大学)
NYトリビューン紙の特派員としてヨーロッパに滞在したマーガレット・フラーは、1848年のイタリア革命時には、ローマ共和国創立およびフランス軍の侵入による崩壊を、包囲されたローマから伝え、イタリア人の独立と統一への協力を熱狂的に訴えた。イギリスやフランスでははるかに進んだ産業革命の影響と、46年からの凶作、旧体制の矛盾を見聞し、フーリエ主義や当時の社会主義運動の認識を深めていった。多くの社会施設を見学し、カーライル、ジュゼッペ・マッツーニ、ジョルジュ・サンド、ミッキー・ヴィッツ等と交流したフラーは、すでに社会主義者を自認し革命家の同志であった。ここでは、フラーのトリビューン紙のイタリア革命の支援を、ロンドン・タイムズの保守的な取り扱いと比較し、その精神的道程を革命の旗手としての公のペルソナと、フラーの私的葛藤の中に検討する。
講 演 8月29日<13:00―14:30>
漫画『スーパーマン』の誕生
専修大学教授 大島 良行
講演要旨
15:00 閉会
開催協力校
Tokyo University of Agriculture
東京農業大学 (http://www.nodai.ac.jp/index.html)
世田谷キャンパス 大学院・応用生物科学部・地域環境科学部・国際食料情報学部・短期大学部
156-8502 東京都世田谷区桜丘1-1-1
厚木キャンパス 農学部
243-0034 神奈川県厚木市船子1737
オホーツクキャンパス 生物産業学部
099-2493 北海道網走市字八坂196