開会挨拶 英米文化学会副会長 山根正弘 (創価大学) (2:30−) 研究発表 1. アメリカのシェイクスピア俳優エドウィン・ブースとブース劇場 (2:40−3:10) 発表 豊間梨乃 (明治大学大学院) 司会 藤岡阿由未 (椙山女学園大学) 2. ピート・シーガーの取り組んだ米国の公民権運動と楽曲歌詞の変遷 (3:10−3:40) 発表 赤木大介 (日本大学) 司会 田嶋倫雄 (日本大学) 3. サトクリフ作品に潜在する障害者としての意識 (3:55−4:25) 発表 鯨岡彩 (茨城大学大学院) 司会 君塚淳一 (茨城大学) 4. つぶやき読みと黙読では聴解成績に伸長度の差は見られるか (4:25−4:55) 発表 安山秀盛 (横浜国立大学) 司会 中山誠一 (実践女子大学) 5. 読者と記憶を分かち合う――『日の名残り』の理想的執事の語りを読み直す (5:10−5:40) 発表 川口淑子 (帝京大学) 司会 曽村充利 (法政大学) 閉会挨拶 英米文化学会会長 曽村充利 (法政大学) (5:40−) 懇親会 (6:10−8:40) 研究発表抄録 1. アメリカのシェイクスピア俳優エドウィン・ブースとブース劇場 豊間梨乃 (明治大学大学院) アメリカのシェイクスピア俳優として世界的な名声を最初に手にしたエドウィン・ブース(Edwin Booth, 1833-93)は、1869年2月3日に自身の名を冠する“ブース劇場(Booth’s Theatre)”をニューヨークで開場した。水圧ポンプによって稼働する昇降板装置やガス灯の照明に備えた自動消火装置、そして、冷暖房の機能を持つ空調設備などを取り入れたこの劇場は、多くの劇場革新の先駆けとなった。 また、1877年から1878年にかけて、シェイクスピアの戯曲を初めとする幾つかの作品にブースが手を加えた台本(the“Prompt Book”)の制作においても、この劇場の仕様が考慮に入れられており、ブースにとって戯曲を上演するにあたって重要な劇場であったことは間違いないと言える。 本発表では、ブース劇場の構造や舞台機構を明らかにすることで、後のアメリカの舞台美術家として有名なスティール・マッケイ(Steele MacKaye, 1842-94)の劇場への影響を含め、この劇場がもたらした演劇への革新について考察する。 2. ピート・シーガーの取り組んだ米国の公民権運動と楽曲歌詞の変遷 赤木大介 (日本大学) 米国の20世紀における社会問題に音楽活動を通じて取り組んできたピート・シーガー(Pete Seeger, 1919-2014)は、アフリカ系アメリカ人公民権運動でも数々の楽曲を歌い、のちにEverybody Says Freedom: A History of the Civil Rights Movement in Songs and Pictures (1989)を出版している。この文献ではデモ行進や教会の集会で歌われた黒人霊歌を中心に、座り込みなどの運動や刑務所の中で歌われた楽曲など約40曲の歌詞が楽譜と共に紹介されている。公民権運動を通じて歌われた歌詞を分析すると、昔から歌われてきた黒人霊歌が平等への訴えを伝える言葉と共鳴し合って変化をしてきたことがわかる。シーガーの解説がある1955年に起きたアラバマ州モントゴメリーで起きたバスボイコット運動から60年代後半の時期までに歌われていた楽曲歌詞を通して具体的に考察する。 3. サトクリフ作品に潜在する障害者としての意識 鯨岡彩 (茨城大学大学院) ローズマリ・サトクリフ(Rosemary Sutcliff, 1920-1992)は、『ともしびをかかげて』(The Lantern Bearers, 1959)でカーネギー賞を受賞するなど、児童文学界で高い評価を受けている作家である。ローマン・ブリテン時代の緻密な描写だけではなく、異文化をもつ他者との関わりあいによる人間の成長を描写することを得意としている。彼女は、他者と関わりあい、相互に理解しあうことによって、自他のアイデンティティの多様性を認識することが可能であり、そのような経験が自己認識や精神的成長につながることを強調している。この描写の背景には、彼女の障害者としての意識が潜在するように思われる。 本発表では、『ケルトの白馬』(Sun Horse, Moon Horse, 1977)、『第九軍団のワシ』(The Eagle of the Ninth, 1954) 等の代表作を取り上げ、主人公の心情や行動、周囲の環境等に見いだせる、20世紀イギリスの教育制度における障害者の立場や作品との関係を明らかにし、障害者への抑圧についての作者の意識に関しても論じる。 4. つぶやき読みと黙読では聴解成績に伸長度の差は見られるか 安山秀盛 (横浜国立大学) 読解活動が聴解成績に及ぼす影響について焦点をあてた研究は未だ極めて少ないが、安山(2016)の音読群と黙読群を聴解成績の伸長度で比較した研究では、黙読群のみ有意に成績が向上し音読群には成績向上が認められなかった。 本研究では、大学生を対象に、つぶやき読み群と黙読群の間で聴解成績の伸長度に差異があるかについて比較分析を行った。つぶやき読みとは、発話者だけが聞こえる程度のわずかな音声化を維持した読み方である(黒岩, 1993)。 分析の結果、読み方に関しては、つぶやき読み群と黙読群の間に聴解成績の差は認められなかったが、学習者レベルに関しては、上位群に比べて、下位群が優位に伸長した。本発表では、分析結果について明らかにするとともに、つぶやき読み、黙読、あるいは音読といったタイプの異なる読解活動をあらためて定義しながら、それぞれが聴解成績に及ぼす影響について、認知的要因に焦点をあてながら統合的に考察する。 引用文献: 黒岩督. (1993). 児童の文章理解におけるつぶやき読みの効果. 教育心理学研究, 41 (1), 79-84. 5. 読者と記憶を分かち合う――『日の名残り』の理想的執事の語りを読み直す 川口淑子 (帝京大学) カズオ・イシグロの『日の名残り』(The Remains of the Day, 1989)は、語り手である執事スティーブンスが過去を歪めて伝えている点に焦点を当てて読まれることが多い。しかし、スティーブンスの語りは人を欺くことを目的としているのではなく、イギリスらしさを表現したり、読者への問いかけを通じて仲間を求める語りであると捉えることができる。この作品の魅力は、巧妙な語りのテクニックにあるのではなく、むしろ理想の執事らしい人柄が見えるスティーブンスの語りによって間接的に表現されるものにある。本発表では、文学以外の作品においても近年多く使われるようになった、単純なノスタルジーとは異なる実際に知らないものを懐かしく感じる感覚に注目しながら、『日の名残り』が作品の外にいる読者に求める共通感覚を分析する。 |